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最高裁判所第三小法廷 昭和45年(あ)619号 決定

主文

本件上告を棄却する、

理由

弁護人小河正儀の上告趣旨は、単なる法令違反、事実誤認、量刑不当の主張であつて、刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。

なお、原判決ならびにその維持する第一審判決の各判示によれば、被告人は、昭和四三年一月二六日午後七時三〇分頃、ダンプカーに友人の甲野乙夫を同乗させ、ともに女性を物色して情交を結ぼうとの意図のもとに防府市内を徘徊走行中、同市八王寺一丁目付近にさしかかつた際、一人で通行中の丙山丁子(当時○○歳)を認め、「車に乗せてやろう。」等と声をかけながら約一〇〇メートル尾行したものの、相手にされないことにいら立つた甲野が下車して、同女に近づいて行くのを認めると、付近の同市佐波一丁目赤間交差点西側の空地に車をとめて待ち受け、甲野が同女を背後から抱きすくめてダンプカーの助手席前まで連行して来るや、甲野が同女を強いて姦淫する意思を有することを察知し、ここに甲野と強姦の意思を相通じたうえ、必死に抵抗する同女を甲野とともに運転席に引きずり込み、発進して同所より約五、〇〇〇メートル西方にある佐波川大橋の北方約八〇〇メートルの護岸工事現場に至り、同所において、運転席内で同女の反抗を抑圧して甲野、被告人の順に姦淫したが、前記ダンプカー運転席に同女を引きずり込む際の暴行により、同女に全治まで約一〇日間を要した左膝蓋部打撲症等の傷害を負わせたというのであつて、かかる事実関係のもとにおいては、被告人が同女をダンプカー運転席に引きずり込もうとした段階においてすでに強姦に至る客観的な危険性が明らかに認められるから、その時点において強姦行為の着手があつたと解するのが相当であり、また、丙山に負わせた右打撲症等は、傷害に該当すること明らかであつて(当裁判所昭和三八年六月二五日第三小法廷決定、裁判集刑事一四七号五〇七頁参照)、以上と同趣旨の見解のもとに被告人の行為を強姦致傷罪にあたるとした原判断は、相当である。

その他、記録を調べても、刑訴法四一一条を適用すべきものとは認められない。

よつて、同法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。(飯村義美 田中二郎 下村三郎 松本正雄 関根小郷)

(注、共犯者、被害者は仮名)

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